題詠blog*久野はすみ


by hasumikan

カテゴリ:題詠blog2010( 101 )

喫茶きまぐれ(草稿)

題詠blogの100首を並べ替えてみました。
きみ→あなたなど、初出時からの変更があります。

 「風に吹かれて」
春を待たず行方しれずになりしとぞ喫茶きまぐれ髭のマスター
スプーンを磨きたくなる霧雨だ、有給休暇を数えておれば
エジプトでミイラを掘っているという噂には誰もが懐疑的
耳菜草ゆれてこそばい耳のなか迷路をゆきて前庭に着く
ドアまでの数歩が遠い青とかげ尾をひからせてひざかりに消ゆ
押すたびにうるさく鳴りしドアベルも錆びて泣き虫フクロウが鳴く
カウンターに飾られていた親分のサインボールの真偽は知れず
公園にはつか和毛をそよがせて猫という名の怒りが歩む
かなしみにたつ虹があるブレザーの金の釦をかがやかせつつ
永遠に1であるため自乗する1でありたし「風に吹かれて」

 春の連弾
きまぐれのくせに律儀なマスターのサンドイッチの断面の美し
青春は未決囚なり珈琲の染みの残りし臙脂のソファー
ごくまれにオーダーをするチョコパフェの、この優しさは穏やかでない
音楽家くずれのあなたのあしもとに息をひそめている火山群
うでとうで交叉してひく連弾に小鳥さざめく春となりたり
撫で肩と怒り肩とがならびゆく春の木陰にまもられながら
そわそわと小さな船に乗り込めばあんず色した夕焼けに遇う
ラムチョップ、ポワロのスープ、ミモザサラダ、恋する人は極上のシェフ
出がらしの珈琲豆の画期的利用方法論じて夜明け
千疋屋のマスクメロンのさみどりのわたしの庭が芽吹きはじめる

 「夏への扉」
こうるさい舌もつ人のために買うカレンズ入りのライ麦のパン
二子玉(にこたま)はふたごではなくふたこなりあなたとゆきたし多摩川花火
南北に夏野をはしる川ありてその果てにある海の鼓動は
靴底を見てはいけない 草の実をひそかに運ぶうつわであれば
口当たり良き磁器(チャイナ)ゆえ棄てがたく小さきかけらを舌に確かむ
憎らしい奴だったよとあなたは言う 嫉みのように咲く金蓮花
踏み込めぬエリアのひとつ、ひんやりと望遠鏡の接眼レンズ
わたくしの宇宙のちいさな彗星に名前をつけよ天文学者
我孫子行き列車いっぽん見送りぬ夏の終わりのホームにふたり
SFの扉ひらけばひだまりにビートという名の老猫がいる

 だりあだりあ
マスターの好きな漫画にまぜておく羽海野チカとかよしながふみを
ねじを巻く夢からさめて少年は狐の面を川に流しぬ
魂のことなら学舎の中庭の公孫樹のほうがよく知っている
どこにいてもあなたは旅びと東京の訛りが語尾をとらえてしまう
白と黒それさえあれば事足りる生き方であるネクタイしかり
晩年が透けてみえるよ背を丸め相撲中継見ているひとの
つやつやの気取ったみかんと言いかけて淡き嫉妬にふと気付きたり
だりあだりあその明るさにうながされ最近読みし本の話を
束縛の快楽を知りてひそやかに奥付に押す朱き印鑑
正露丸くちにふくんでいるような 心は告げず冬に至りぬ

 ミルクにラムを
窓際は特等席ゆえLPにかすかにまじる木枯らしの音
店の隅でねむってしまう珈琲豆(ビーンズ)のたっぷり入った袋のように
何をもって恋人と呼ぶ虹彩の模様をうつすすべも持たずに
午後二時のぽかんとあいた空間に球根を植えるようにわたしを
消滅の恐怖しずかにしのびよる地下階段をふたりくだれば
分銅を天秤皿に置くように触れてくるからゆれやまぬのだ
くちびるの薄皮はがれそうな冬あなたがささやく元素番号
森という森の全部の木につげし思いをまとう森の女神は
温かきミルクにラムを、平野レミなみの元気を。おやすみなさい
空耳にふるえる鼓膜 必要か不必要かといえば必要

 「アメリカの夜」
理髪店に蒸しタオルの匂い満ちている幸福はわりとあっさり終わる
三日ほど過ぎて捲りしカレンダーそこにだけ在るあなたの不在
ペットロスいまだ癒えざるともだちと悲しむための映画を選りぬ
ヌーヴェル・ヴァーグ語りしことも遠き日の葉陰にひらく夢の円環
いつもいつも同じシーンに涙する「アメリカの夜」ともに見し日も
倦怠はアヌーク・エーメのまなざしにまかせて夜の街へ繰り出す
ゆびとゆびからめて覗く来世かなきみは山鳩われは梟
ふふみたるペリエの泡の消えゆけばもういちど始まる物語
犬たちのしっぽまあるく巻かれいるゆうべ正義の骨くだく音
エレベーターガールのような笑顔など持ち合わせずに聖夜を帰る

 函館の絵葉書
王国のスーパーマリオの活躍ももはやレトロとなりにけるかも
ふかくふかく鉛しずめし夜の椅子におとぎ話の兵隊がくる
骨密度低くなりゆくゆうぐれのあなたとしずかに浜歩む夢
紺色の褪めてよれたるTシャツの胸に残れり、白き帆船
壁紙の剥離作業のただなかの、たとえばそういう愛かもしれぬ
じゃんけんで決める小さな運命を重ねてゆけばよかったのだろう
簡単に変換できること苦しあいべつりくもおんぞうえくも
星の環のつぶのひとつであるように言葉はめぐるめぐり続ける
混沌をきっぱり捨てて函館の絵葉書だけをふたたびしまう
京芋の炊いたんの湯気のさみしさを告げたしあなたにまた会えたなら

 ぶっぽうそう
ことごとく負けて日暮れの台所じゃがいもの芽のさみどりに泣く
戯作者の心意気にて書きしとの日記はついぞ公開されず
千代紙の男雛と女雛つつましく娘をもたぬわが家を飾る
仏法僧ぶっぽうそうの鳴き声も去りてますます鎮もる森は
雨傘が交差してゆきすべからくしずかだ そこに燃える町がある
軒下のちいさなちいさな水たまりちいさな空を映してひかる
あまくやわく拒絶したがる脳だから探しておくれ鳥かごをさげ
肉体は借りものなれば心臓に半月弁という月がある
美輪さまの卒塔婆小町のうるわしく百年のちにふたたび逢わん
遍路道に小さき墓の苔むすを白衣の青年拝みて過ぎる

 夜間通用口
混沌がすこし足りない日曜は成田第一ターミナルへと
ひかりふる対向車線もう二度と遇わない人とすれ違いゆく
島として鳥のあなたをとまらせた いくたびも砕け散る波がしら
つぶやきのひとつひとつが透明になりゆく午後の匿名の唄
病める日も健やかなる日もマスターの珈琲があれば生きてゆけると
だれよりもわたしのことを知っている液晶画面の指紋をぬぐう
ひととおり唄いおわれば麗らかな、野辺の果てまでひなぎくの咲く
均一な厚みを持った生真面目なコップを買おう、朝(あした)のために
三歩あとを必ずついてくる孤独ときおりぎゆうと抱きしめてやる
ほの暗き灯火のなかに冷えており夜間通用口の鉄扉は

 イコール
いきものの気配の満ちる夜なればみずうみ色のマニキュアを塗る
黒砂糖とけゆくような倦怠をはきだすために犬を連れだす
あけがたの河口を望む 鮮烈に思いだすときよぎる白鷺
<完>ののち空白だけが広がりぬあとがきのない恋愛小説
それはもう微々たることで 虫食いの薔薇の根にさえ豊かなり土は
長編を読み終え見上ぐる揚げ雲雀そろそろ旅に出ようと思う
換気扇のファンがうるさく鳴っていて再会場面をだいなしにする
始まりも終わりもきっと腕白なこどものように眠るのだろう
イコールは答えを強いる記号なり曖昧に問うせつなくて問う
本日は閉店 されどきまぐれの珈琲は貴方を幸福にする
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by hasumikan | 2010-12-02 03:50 | 題詠blog2010

100:福(久野はすみ)

本日は閉店 されど気まぐれの珈琲は貴方を幸福にする
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by hasumikan | 2010-11-30 23:53 | 題詠blog2010
イコールは答えを強いる記号なり曖昧に問うせつなくて問う
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by hasumikan | 2010-11-30 23:48 | 題詠blog2010

098:腕(久野はすみ)

始まりも終わりもきっと腕白なこどものように眠るのだろう
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by hasumikan | 2010-11-30 23:37 | 題詠blog2010

097:換(久野はすみ)

換気扇のファンがうるさく鳴っていて再会場面をだいなしにする
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by hasumikan | 2010-11-30 23:34 | 題詠blog2010

096:交差(久野はすみ)

雨傘が交差してゆきすべからくしずかだ そこに燃える町がある
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by hasumikan | 2010-11-30 23:29 | 題詠blog2010

095:黒(久野はすみ)

黒砂糖とけゆくような倦怠をはきだすために犬を連れだす 
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by hasumikan | 2010-11-30 23:22 | 題詠blog2010

094:底(久野はすみ)

靴底を見てはいけない 草の実をひそかに運ぶうつわであれば
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by hasumikan | 2010-11-30 23:17 | 題詠blog2010

093:全部(久野はすみ)

森という森の全部の木につげし思いをまとう森の女神は
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by hasumikan | 2010-11-30 23:14 | 題詠blog2010

092:烈(久野はすみ)

あけがたの河口を望む 鮮烈に思いだすときよぎる白鷺
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by hasumikan | 2010-11-30 23:10 | 題詠blog2010