IE9ピン留め

100:完(久野はすみ)

小春堂店主としては完本とならぬ百首をバラ売りにせり


099:惑(久野はすみ)

ジョーンズの調査まだまだつづきたるこの惑星に泡雪が降る

098:味(久野はすみ)

滋味ふかきシシ肉の鍋ゆるやかなほろびの冬をうけいれており

097:毎(久野はすみ)

水のない海のようなる毎の字をみつめるほどにさびしくなりぬ

096:取(久野はすみ)

きみが眼を洗いたるときみずうみに影を落としてたつ取水塔


095:遠慮(久野はすみ)

まあどうぞあなたがどうぞと遠慮して最後の包子(パオズ)さめてしまえり

094:裂(久野はすみ)

分裂をくりかえしつつ霊長目ヒト科ヒト属ヒト育ちゆく

093:迫(久野はすみ)

見るための勇気がすこし足りぬのだ太地喜和子のその迫真を

092:念(久野はすみ)

概念のつかみがたきをつかまんと白紙に描くいくつもの円


091:債(久野はすみ)

「もう少し待ってください」債務者のかぼそき声の間違い電話

090:そもそも

荒れくるう嵐の一夜あけたればもそもそもそとふとんより出ず

089:成(久野はすみ)

ぐずぐずと成り下がりゆく一夜かな柿の実ひとつテーブルにあり

088:湧(久野はすみ)

これ以上走れないよという人のために湧きたる清水がここに


087:閉(久野はすみ)

閉じてゆく雲と雲とのあわいよりこぼれるものをあこがれと呼ぶ

086:貴(久野はすみ)

そこそこは幸せであるわたくしは貴腐のワインの味を知らざり

085:フルーツ(久野はすみ)

金色のキウイフルーツ剥きながら心は朝日に輝く沼へ

084:総(久野はすみ)

総武線沿線の駅に捨ててきた言葉をふいに思い出す夜


083:溝(久野はすみ)

側溝にほのかに香る湯気があるこのさいわいをきみにつげたし

082:万(久野はすみ)

喜んで万歳をするシミュレーションがついにおてあげとなるまで

081:配(久野はすみ)

とりあえずすました顔で配られる荷物の中のあまた欲望