小春堂店主としては完本とならぬ百首をバラ売りにせり
ジョーンズの調査まだまだつづきたるこの惑星に泡雪が降る
滋味ふかきシシ肉の鍋ゆるやかなほろびの冬をうけいれており
水のない海のようなる毎の字をみつめるほどにさびしくなりぬ
きみが眼を洗いたるときみずうみに影を落としてたつ取水塔
まあどうぞあなたがどうぞと遠慮して最後の包子(パオズ)さめてしまえり
分裂をくりかえしつつ霊長目ヒト科ヒト属ヒト育ちゆく
見るための勇気がすこし足りぬのだ太地喜和子のその迫真を
概念のつかみがたきをつかまんと白紙に描くいくつもの円
「もう少し待ってください」債務者のかぼそき声の間違い電話
荒れくるう嵐の一夜あけたればもそもそもそとふとんより出ず
ぐずぐずと成り下がりゆく一夜かな柿の実ひとつテーブルにあり
これ以上走れないよという人のために湧きたる清水がここに
閉じてゆく雲と雲とのあわいよりこぼれるものをあこがれと呼ぶ
そこそこは幸せであるわたくしは貴腐のワインの味を知らざり
金色のキウイフルーツ剥きながら心は朝日に輝く沼へ
総武線沿線の駅に捨ててきた言葉をふいに思い出す夜
側溝にほのかに香る湯気があるこのさいわいをきみにつげたし
喜んで万歳をするシミュレーションがついにおてあげとなるまで
とりあえずすました顔で配られる荷物の中のあまた欲望

